「キーチ 第九巻」新井英樹

キーチ!! 9 (ビッグコミックス)

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「RIN」の新刊を買いに行ったらいつのまにか出ていたので買ってきた。八巻の盛り上がりの後始末ということで、その後の展開はまあ流れとしては普通かな、と。で、子供編はこれで終わりということなのでしょうか。キーチ君の人生がまさにこれから始まるというわけですな。
まあ、全体的な評価としては面白いと言えるんだけど、問題は終盤の秋ポンのあれでして…。正直しらけちゃったよ。あれはちょっとやり過ぎかと。まず「キーチ」って物語はフィクションってのが前提にあるから、神懸かりにはちゃんと理由付けなり演出上のなんとかなりしないと話に説得力が無いという問題を露呈してしまったように思う。新井英樹って実は話の作りがあざといところがあって、例えば「ザ・ワールド・イズ・マイン」にも神懸かり描写ってのは結構あって、それらはそこそこ演出として成り立っていたように思うのだが、今回のはちとやり過ぎ。そーんな奇跡を連発されるとありがたみ無くなっちゃうよ。そこまでの展開はかなり面白かっただけに残念。
それとこの展開だとキーチ君は本人の言う通り独裁者一直線ですな。別にお話としてはいいんだけど、この路線で行くと理想的な政治体制って賢人政治ということになってしまうが(笑。政治に英雄待望持ち込むとろくなことにならんよ。特定の聖人君子の存在を前提にしないといけないシステムってそれだけで崩壊を宿命づけられていると思うが、*1喜一&甲斐コンビの目指しているものってまさにそういう政治だよな。まあこの条件を達成できそうな主人公の存在が前提にあるところがこの漫画が本質的にファンタジーである由縁なのだが。それともそのうちどんでん返しでもあるんですかね?
それはともかく新井英樹は相変わらずえげつない母親を描かせると凄いな。あと今回のベスト台詞は甲斐君の「そらクソ現実や!!負け犬が遠吠えしてリアリスト気取るな!!」かな。うーん、鋭い(笑。現実主義ってのは現実を動かすために取る立場であって現実に順応するために採用したら負けだよね。

*1:なぜって、利己的で欲望は限りなく一度無制限の権力を握ればたちどころに腐敗し自らと自らの身内の利益追求に邁進する、それが人間の本性だから。加えて「地獄への道は善意で舗装されている」とも言うね。高邁な理想を持ってる人間ほど権力持たせると怖いのよ。であるからこそ次善の策としての「民主主義に万歳二唱」なわけだ。