「NHKにようこそ!」滝本竜彦(角川書店)

NHKにようこそ!

NHKにようこそ!


これを紹介するのにはちょっと抵抗がないでも無い。
何故かといえば、本書のいたる所から漂うある種の匂いのようなものに気づいた瞬間に小生は警戒心を覚えたからである。あ、この匂いは知ってるけど、まかり間違っても知っているなどと口走ってはいけないな、という警戒心である。踏み絵を前にした隠れキリシタンの警戒心である。ご理解いただけるだろうか。
つまり、この手の所謂ラノベを読むのは全く完全にはじめてなのだが、実際読んでみて文体やネタ使いのセンスがもの凄いよくわかってしまうのは普段一般人を装っている小生としてはどうなのだろうかといろいろ考え込んだ次第であります。(つーか一人称が「小生」という時点で…等の突っ込み絶賛受付中)
でも、いるでしょう?この主人公の佐藤君みたいな、俺はヒッキー体質だけどヲタクではないぜ的なぎりぎりの葛藤を抱える人って。小生もこれをレジに持っていくというのは大分躊躇しましたよ。いや、いかんせんこの表紙からしてアレだしね。
そして、なによりも小説中に描かれる引き蘢りの苦悩、後悔、絶望その他諸々のネガティブな感情が現在進行形で続く小生の生活状況とリンクして凄いことになってしまった。将来への漠然とした不安だの、なんにも考えなくてよかった過去へのノスタルジアだの、いちいち的確に引き蘢りの急所を捉えるその手管や見事。あっぱれ褒めて使わす。というか、これやばい。マジヤバい。宇宙ヤバい。
どのようなことが書かれているのか一言で表現するならばそれはすなわちヒキコモリ青春冒険活劇。具体的には、お外に出たいのでいろいろあがいてみたけどやっぱりだめだったよあはは、というお話である。まあ、ストーリーなんぞあってないようなもので、メンヘラー救済とかは単なる舞台装置。結構ベタだしね。一番の見所はやはり引き蘢りの引き蘢りたる所以である強烈な自意識の怒濤の独白だろう。真人間は近寄ってはいけません。中毒起こしますぜ。
ところで、小生がなぜこのブログを始めたのかといえば、日々の生活のなかで読んだり聴いたりしたものを整理して書き留めておきたかったのと、もうひとつは小生のような人間類型としての「引キ蘢リ」が2000年代初頭の文化状況において何を考えて生きていたのかをネット上のリソースとして残しておくのも悪くないかなどとの考えがあったのであるが、そのような人間類型理解(笑のための一つの資料として、この小説は非常に参考になると思う。
但し、合わない人にはひたすら合わないでしょうし、小説としてのクオリティも正直どんなもんでしょといった具合なので(構成とか、キャラクター造形、心理描写その他ね)お薦めはしないでおきます。第一高いんだよ1700円てなに。
何を血迷ったか興味を持ってしまった方は、この本を楽しめる条件として、「勝手に改蔵」を読んで笑うことが出来る、というのがアマゾンのレビューで挙げられていましたので、ご参考までに。的確だと思います。何それ?と思った人はくれぐれも近づいてはいけませんよ。世の中には知らなくてもいいことは掃いて捨てるほどあります。知らないことは知らないまま死ぬ。なにか感動的ではございませんか。えぇえぇ。