「貧困の克服―アジア発展の鍵は何か」アマルティア・セン(集英社新書)

貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)

貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)

■概要
アジア出身者としては初のノーベル経済学賞受賞者である経済学者アマルティア・セン。本書は経済、政治、哲学、公共政策に関する四編の講演集に、彼の業績についての簡単な解説を加えたもの。
第一章:アジアの経済発展の基礎となった条件、および短期的な危機についての考察。
第二章:リー・クアン・ユーを代表的な論者とする「アジア的価値」論の批判を通して、個人的自由および人権概念の擁護。
第三章:引き続き「アジア的価値」論の批判を通して民主主義の普遍性を擁護。
第四章:「人間の安全保障」について、これからの課題等。
第五章:アマルティア・セン。その人生と思想。
■覚書
●民主主義における政府への政治的インセンティブが自然災害時などの場合に飢饉の防止に役立つことを指摘。pp112-115

●「センのリベラル・パラドックス」:リベラリズムのなかに存在する多数決すなわち全員一致の原理と個人の自由の承認の原理との対立。pp158-159*1

●潜在能力(capability):「人が善い生活や善い人生を生きるために、どのような状態にありたいのか、そしてどのような行動を取りたいのかを結びつけることから生じる機能の集合」センの厚生経済学開発経済学の議論における基礎的概念。p167
■雑感
講演録自体はたいして面白くない。むしろ付録として付いているセンの業績解説と生い立ち*2がコンパクトにまとまっていて有用。ロールズとの論争あたりもちゃんと書かれていておもしろい。

*1:これっていわゆる民主主義と自由主義の対立じゃないのかね。

*2:どうでもいいけど、奥さん三人目なんだ。モテますね。