「仕事のなかの曖昧な不安」玄田有史(中公文庫)

仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 (中公文庫)

仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在 (中公文庫)

■概要
貧富の格差や中流崩壊など、人々の生活、主に労働の分野で広がる「曖昧な不安」の正体を各種のデータを援用して解明するというのがおおまかな内容。
一般的なイメージに反し中高年層の雇用よりも若年層の失業率を深刻な問題として議論の俎上に載せた上で、若年失業者の増加原因を既得権化された中高年層の雇用にあると指摘。つまり企業の雇用調整が主に新規採用の抑制を中心として行われることが若年層の失業率増加に繋がっているという議論がなされている。
ほかにも賃金格差よりも労働条件の格差を指摘。例えば、少数の若手への負担増加、若者の職業教育の機会の減少、などなど。これらへの処方箋として「自分で自分のボスになる」こと、具体的にはフリーター層への起業の勧めがなされている。
■覚書
成果主義成功の条件:賃金制度の変更と同時に仕事分担の明確化や能力開発機械の提供などの、仕事条件の整備が必要であることを指摘。:第六章
ウィーク・タイズ(Weak Ties):「弱い紐帯」。自らの職場外に存在する友人。転職において満足度や所得状況、労働条件の改善には「有益な助言をしてくれる職場以外の友人・知人の存在」が重要であることをデータから示している。:第七章
●起業の成功条件:統計データから起業の成功条件として、学卒後に十年近く仕事を経験した四十歳直後であることを挙げる。また、開業から最初の二年を乗り越える時期を境に事業が軌道に乗り出すことを示している。:第八章
■雑感
本当にいまさらであるが、ニートなど昨今の労働問題にかんする議論のはしりとなったような本を読んでみた。
失業問題を安易にサプライサイドの問題にしないところは共感。というか、この本がニート議論の先駆けだとおもうのだが、*1それにも関わらず一時期のニート議論*2が個人の意欲等の問題として論じられていたのはなんだったのだろう。読めば分かるように、玄田氏の主張は中高年層の雇用確保が若年失業者増加の原因として一貫している。
しかしマクロ経済学周辺からはそもそも問題は景気悪化ではないかとの指摘もあり、家庭環境なども議論にふくめたとしても、結局のところミクロな視点から若年失業者問題に焦点を当てることには批判の声も。*3

*1:とはいえ本書にニートと言う言葉は出てこない。

*2:世間的には今でもか。

*3:例えば、このあたりを参照:http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20050415#p1