「心の仕組み」スティーブン・ピンカー(NHKブックス)

心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス) 心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈中〉 (NHKブックス) 心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈下〉 (NHKブックス)

ピンカーの本については去年「人間の本性を考える」を読んで激しい衝撃を受けたというか、言ってみれば思考方法のOSを変更したぐらいの影響を受けたので本著にも手を出してみた。
簡単に説明すると「人間の本性を考える」が「Blank Slate」という言葉に象徴される、経験説に強い影響を受けた標準社会科学モデルに対する根本的な批判、および進化理論に基づく人間観の確立を基軸としているのに対して、本著はもう少し穏やかに認知心理学進化心理学の知見を軸に各種自然科学や社会科学、規範理論その他を渉猟して書かれたサイエンス読み物である。しかし、それでも従来の古典的教養の徒*1に対してはその人間理解を根底から覆しうる破壊力を秘めた書と言える。
本書の前半は以前書いた認知心理学のお話なのでそれはおく。なんと言っても刺激的なのは進化心理学についてまとめた後半部分だろう。適応としてのセクシュアリティのはなしなど最高に下世話で最高に面白い。こういう話が「科学」というソリッドな基盤におかれうるというのは本当に衝撃的なことであると思う。一節ぐらいまるごと引用したいのだが、まあそれは買ってみて読んでほしい。損はしないと思う。
何度でも言うが今後人間について考えるのにこの領域の知見は不可欠となっていくだろう。本書を読めば、今後あらゆる人間行動研究の基盤となりうる学問分野、それが進化論に裏打ちされた生物としての人間研究であることが熱気をもって伝わってくる。*2
しかし、それなりに売れてる本のはずなのに、ネット上でこの手の知識を紹介する人があんまりいないのはなぜなのだろう。というか反発すらあまり見ない。思うに、この種の知識を持っている人はいても、*3そのことが持つ意味を捉えられていない人が多いのではないか。*4

*1:つまり朝日岩波的なアレだ。

*2:この間まで大騒ぎしてたモチ非モチ議論とか、進化心理学の知見を土台に据えた議論が見当たらないのではっきり言って不毛だと思ってる。人間について語るのに人間の生物的側面が捨象されるなんて馬鹿げたことがまかり通る時代はじきに終わるのであーる。

*3:はてブとかだとたまーにこの領域の話題は出てくるしね。

*4:その種の知識のほとんどが学術リソースとしてしかネット上に存在しないことに不満を覚えてこのブログを開設してみたんだけど当初の予定とかなり食い違ってしまったなあ。人文系ならいっぱいいるのにね。