「げんしけん」木尾士目(講談社)

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

げんしけん(1) (アフタヌーンKC)

実は前々から気になってはいたのだが、とある事情によりヤケになって6巻まで大人買いしてみた。
僕がわざわざ説明するまでもないと思うけど、一応しておく。本著は、東京の郊外にあるらしい、とある大学におけるオタク系サークル、現代視覚文化研究会を舞台に、オタクの日々の生活を軽やかに描く学園モノ漫画とでも表現すればいいのだろうか。よく引き合いに出される「究極超人あーる」と同様にある種のオタクの理想郷を描いてオタク周辺に人気の作品のようだ。
結論から言ってすげえ面白い。あー、すいません。やっぱり自分オタクなのか。でも、何のオタクかと問われるとちょっと答えにくいのだけど。アニメは見ないし、漫画もゲームもあんまり買わないし、ゲーセンも行かないし、まあ音楽は好きだけど持ってる音源はたいした数ではないし、本当にマイナーなインディーものとかの話になると分からないしな。*1そして、なによりエロゲーとか同人誌買ったりはしないから!そこらへん微妙な一線引いてるけんね!とか、そういう変な自意識。つまりオタ趣味恥ずかしいから隠そうみたいな自意識までちゃんと描かれているのがすばらしいと思いました。ハラショー。そこらへん、オタク文化に加えてオタク的な人間類型をきっちり描いた漫画なのです。
個人的にこういうネタってピンポイント。最初の方の笹原君とかあんまりはっきりとした心理描写が無いのに、何考えてるかよくわかってしまうのが悲しいと言えば悲しいけど。彼はげんしけん入らなかったら確実に引き蘢り2ちゃんねらーですよ間違いない。しんみり来るなあ。
他にも、大野さん登場の回とか、班目×春日部の回みたいなしんみり来るお話は書きつつも、あんまりジメジメしすぎたこと書かないのが、いろんなとこで言われてるけど「優しい」ってことなのだろうか。大野さんがサークルクラッシャーにならないのはおかしい、とか。上述の「恥」の話もそうなんだけど、自意識系の痛々しさがあんまり作品全体から感じられない。言い訳臭くない。この手のオタクの自意識を書きながらもあっさりしてるっていうのはすげえと思た。まあ逆に言うとレア感というか生々しさというか、ある種のグロテスクなイノセンスは描かれていないんだけどね。でも、この人描こうと思えばもっと嫌なものも描けるよ。多分。
で、一番のポイントと言ったらなんと言うのかなあ。僕はそもそもオタ系どころか普通のコミュニティにすらあんまり帰属したことが無いので、逆によくわかるんだけど、こういう「話の通じる」空間って凄い居心地いいものなんだと思う。多分ね、これは想像だけど、オタ傾向あるけど、まわりにオタクがいない人、その手の話をする相手がいない人ってのはたくさんいると思うのですよ。多分そういうコミュニティへの希求みたいなものがこの漫画がウケた理由でもあるのではないか、と。
最後に、お話の構造的な部分をどう作るかって重要なところだろうけど、この漫画はよく練ってあるなあと思いました。高坂君という完璧超人かつオタクというツボを押さえたキャラに、一般人の彼女春日部をくっつけるというギミックがこの漫画のキモでしょ。姉御肌の春日部の突っ込みという一般人の視線の取り込みによって生まれるある種の自虐ネタ的な小気味よさもこの漫画の魅力の一つだろうと思料。ところで、この漫画で出てくる大学だが、僕はなぜか筑波大学がモデルだと思い込んでいたのだが、各種描写をみるに明らかに中大の多摩キャンパスだった。
さて、なんだか班目世代卒業で不安な雲行きですが、これでまた新しいキャラ入れて、あるオタクサークルの栄枯盛衰とかを十年ペースで描いたりしたらものすごい漫画になるんじゃないかと思ってる。なんか大野さん卒業でキレイに終わりそうな気もするけど。
あ、今気づいたけどオタクに対する愛憎入り交じった僕のスタンスってまんま荻上さんじゃないか!オギー萌え!などと口走って本稿を終了させていただきます。

*1:あ、要するにヌルオタというやつなのか。なのか。