「滑稽」大室幹雄(岩波現代文庫)


古代中国の遊説知識人っていますでしょ。ほら、孔子とか、孟子とか、漢文で出てくるあの連中。本書は彼らが一体何して食ってたのかとか、当時の社会でどういうポジションにあったのか、とかを古今東西の文献を援用しながら滔々と語るんでございます。
さて、ずば抜けた記憶力とよく回る舌にまかせて白を黒と言いくるめる弁舌のパフォーマンスを古代中国では<滑稽>と表現したそうな。で、そういう異能の知識人達の居場所が当時の宮廷社会にはあったらしく、滑稽知識人というものがひとつの社会的地位として認知されていたんでございます。そして孟子みたいな有名どころの成功者は乗物数十両親族弟子従者数百名という大名行列のような集団を構成して大陸を練り歩いていたんだそうな。すごいですね。まるでサーカスみたいです。というか、まさに見せ物です。この時代の王侯貴族は滑稽知識人含め変な一芸を持ってる連中を自分のところで飼っているのが一種のステータスであったようです。犬のかっこして人んちに盗みに入る奴とか、鶏の鳴き声が巧い奴とかね。小生もパトロン欲しいですね。家事炊事は苦手ですが、よろしく。
で、今で言ったらこれは芸能人とか知識人とかのお話かもしれません。現代では制度化された学問研究の場は数多くありますが(正規の教員として大学等の高等教育機関に勤務する人は14万人以上もいるそうです。ネタ元:鷲田小彌太w)、そのような社会的基盤が整うまでは金持ちに引っ付くのが道化の生きるすべだったのですね。そして現代においては大衆に引っ付く訳です。人気商売で大衆無視してはおまんまは食えません。大衆の反逆万歳だ!
そういえば、この著者も見事な<滑稽>ぶりを披露してくれます。オルテガとか、ベンヤミンとか、エラスムスとか、果てはシュミットまで引用してくるのにはちょっと驚いた。一昔前の紛う方無き教養派。参考文献からもそれが伺えます。