犯罪被害者と加害者の関係に関するメモ

ネット巡回中になかなか衝撃的な事実を発見。詳細は以下のブログに引用されている「治安はほんとうに悪化しているのか」という本に拠るが、犯罪白書によれば殺人事件の被害者と加害者が親族や顔見知りである割合は近年の統計でおおむね85%から90%に上るらしい。

http://d.hatena.ne.jp/kechack/20070114/p1

かなり興味深かったのでちょっと調べて犯罪白書から平成16年のデータを持ってきたよ。*1

http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=51&HLANG=&NSS_POS=192#H003001005001E
おお、本当だ。殺人事件に関しては実に87.3%が加害者と被害者に面識あり。しかもその半分は親族等。テラオソロシス。
でも、このデータってよく考えると実はそれほど驚くべきものではないのかも。なぜかと言えば僕らは基本的にこの世の中で生きていくうえで様々なリソースを巡って他者と争ったり、協力したりして利害関係を構築していくゲームのプレイヤーと見ることが出来る訳なんだけど、殺人っていうのは対抗者あるいは協力者としての他のプレイヤーの存在そのものを抹消してしまう非常に乱暴でリスクある行為なわけで、そりゃあ殺してしまうまでに至るにはその前提として何らかの深い利害関係を持っている可能性が高いよね、と。*2要するに殺人の被害者と加害者は事前に面識がある可能性が高い、と。
で、むしろ通り魔的な犯行って自らの効用を増大させる手段としてはかなり特殊なものでしか無いと思う。というか通り魔殺人で増大する効用っていうとほとんど思いつかないんだけど。世の中に鬱屈していて人生の最後にでかい花火を打ち上げたくなった、とか?大体が殺したくなるほどの激情あるいは利害関係をもたらすものといえば直接、間接に金とセクロスに関わるものぐらいしかないだろうし。*3
さて、以下つらつらと残りのデータを眺めてみよう。傷害や恐喝などの粗暴犯、特に強盗や窃盗になると面識無しの比率が大幅に上がっている。これは単純に窃盗や強盗なんかは被害者との面識が無くても*4犯罪行為による効用の増大が見込めるからだろうね。*5強姦・強制わいせつについても同様。ただ強姦の面識率が強制わいせつの2倍程度あるのは『選択』っていう要素が働いてるんだろうなあ。どうにもえげつない話ですが。

*1:http://hakusyo1.moj.go.jp/より。しかし、こういうデータを公開してくれるのは非常にありがたいなあ。知は力なり。

*2:そうでもなきゃそんなハイリスクな行為は選択しないはず。

*3:特に「名誉」ってのがまさにそう。

*4:つまり事前に利害関係を持たずとも。

*5:傷害に関して言えばヒトが比較的軽度のトラブルにおいて相手を殺さない程度の暴力を交渉手段の一部として用いる傾向があることを示しているように思われ。って言うと大げさだが、要するに腕力にモノを言わせることだわな。

「日本で、女性がレイプされる確率が一番高いのは、「知合い・友人」なんである。」とは言えない。

http://d.hatena.ne.jp/pal-9999/20070116/p1
ええと、論旨自体はそこそこ賛成できるものなんですけど、記事中の事実認識に誤りがありまして、何故か丁度その関係のデータを犯罪白書で調べてみた直後だったので指摘しておきます。平成14年から16年の犯罪被害者と加害者の関係に関するデータを引用。強姦のとこを見てください。しかし、なんつータイミングだ。

http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=51&HLANG=&NSS_POS=192#H003001005001E

http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=48&HLANG=&NSS_POS=151

http://hakusyo1.moj.go.jp/nss/list_body?NSS_BKID=44&HLANG=&NSS_POS=143
はい。これで十分でしょう。強姦は「知り合い・知人」による犯行よりも「通りすがり」による犯行の方が多い訳です。例年後者が前者の二倍ほどですね。

しかし元記事はもの凄い勢いで

見ず知らずの男に、夜中の誰もいないような道端でレイプされるというケースは、日本ではほとんどない。レイプの多くは、知人・友人から、女性の自宅、あるいは知人・友人の家で行なわれている。

とまで断言してるんだけど、これ何か根拠があるのだろうか?*1ここまで断言されると何か不安になっちゃうぞ!

ただまあ妙齢女性が男性と二人きりで密閉空間にいるのは(彼女の性的自由が侵害される危険性があるという意味で)好ましくない、というのには賛成です。はい。

あとねーこの議論を男全体に適用する問題なんだけれども、ぶっちゃけ例外はあんまりいないと思われるし、「男は危ないです」を前提に行動した方がよりセキュアだと思われますです。なので安易に「みんながそうというわけではない」みたいな言い方するのもどうなんですかねー。だいたいがこの手のヤラレ方しちゃった子って「そんなことする人だとは思わなかった。」みたいなこと言いませんか?「この人だけは例外だと思った」みたいな。そんなわけないんですけど。*2

まあ相手の道徳意識に過剰に期待するのはセキュアとは言えない、ということで。おわり。

続きがあったので追記

http://d.hatena.ne.jp/pal-9999/20070117/p2

なるほど。確かに強姦と和姦のあいだには凄まじく広いグレーゾーンがあって「女性との合意のない不快なセックス」を問題視するというのは極めて妥当なこととは思うのですけど、だからこそ最初に使っている言葉の定義をはっきりさせるべきだったと思いました。センシティブな問題なんだし。
少なくとも元記事で挙げられていた

見ず知らずの男に、夜中の誰もいないような道端でレイプされるというケース

なんてどう考えても議論の余地のない典型的な「強姦」であって、「女性との合意のない不快なセックス」どころではあり得ないのだから、こういう例とデートレイプなどを念頭に置いた事例を特に断り無く同じ「レイプ」として表記するのは言葉の使い方としていかがなものかと思いました。以上。

*1:追記:犯罪白書に否定的なデータがあった模様。http://d.hatena.ne.jp/wetfootdog/20070117/p1

*2:追記:このあたり誤解を招く言い方だったかも。注記しておくと、この一節は「この人だけは例外」と思い込むのは危ないですよという注意喚起であって、レイプ被害者に道徳的非難を向けるものでもなければ、ましてやレイプ犯を免罪するものでもありません。しかし軽率な物言いであり、ご不快に思われた方がいればお詫びします。