ディストラクションベイビーズ 真利子哲也

distraction-babies.com

 

 たまたまテアトル新宿にリップヴァンウィンクルの花嫁観に行ったときに見かけたのだけど監督があのイエローキッド真利子哲也と知って早速観に行ってみた。真利子哲也といえばイエローキッドが特にそうだったのだけど、粘着質な変態の撮り方がなかなかすごい監督で、なんというか異形の者の描き方が上手い人なんです。これって例えば漫画家の新井英樹とかもそうなんだけど、今作はあらすじなんかを見たりして新井英樹っぽい映画なのかなーと予想して行ったら完全に新井英樹でした。しかもThe World Is Mineでした。*1

 

 内容はもうひたすら柳楽優弥が通りすがりの人をむやみに殴りつけるだけの映画なんだけど、これはもう完全にモンちゃんですね。それに菅田将暉扮する腰巾着役のチンピラ裕也が出てきてモンちゃんを煽るわけだけど、はいトシですね。まあ役柄的に単なる頭空っぽのチンピラで自分より弱そうなやつしか手を出さず通りすがりの女子高生をいきなり殴ったりするようなクズの人なのでトシほど活躍しませんが。それとマリアポジションとしては巻き添えで拉致されるキャバ嬢、那奈役の小松奈菜なんでしょうか。ただこのトリオ3人が3人ともわりとクズっぽい感じなのでドラマ性は薄いです。主要キャラのうちで唯一主人公の弟が真人間で、四国を放浪して人を殴りまくるお兄ちゃんを心配してけなげに探して回りますが、いつもニアミスで見つかりません。かわいそう。

 

  で、この映画の見所というと多分大方の人も期待してるところの久々の柳楽優弥なんだけど、なかなかよかった。ほとんどセリフはありませんが、狂犬のような笑みを浮かべて獲物を探してさまよい歩く様がいい感じに痺れる。かなりのクオリティのモンちゃんじゃないでしょうか。モンちゃんじゃないけど。あと意外に小松奈菜の演技がキレてて良かった。瀕死の裕也を蹴りまくりながら罵倒するシーンがあって一部の業界の方にはご褒美じゃないでしょうか。知らんけど。

 

 総じてこの映画、出てくる登場人物がのきなみ暴力的です。TWIMもそうだったけど、こういうむき出しの暴力性ってまま人間性とは対立するようにも捉えられたりするけど、本当は人間の生命力の表出で、それが他者とぶつかるところに人間にまつわる様々な営みが生まれるのだと思う。それは倫理と呼ばれるものかもしれないし、正義と呼ばれるものかもしれない。観客はおそらく主人公泰良や裕也の露悪的に描かれた暴力に不快感を覚えたり、逆に那奈の報復に爽快感を覚えたりするのかもしれないが、そのこと含めてまるごと人間のやることなんです。そしてそれを値踏みするのも人間なんです。そういうどうしようもない人間性というものを撮るのが映画なんです、というと大上段でよろしくないけど、少しは当たってるんじゃないかと思ってます。

*1:どうも事前のトークイベントに新井英樹来てたみたいですね。しかしかなり痩せてるんだけど見るたびビジュアル違うなこの人。