ゼンデギ グレッグ・イーガン

 

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 いつの間にかイーガンの新作が出ていたらしい。今回のネタもイーガンの十八番である人格のデータ化、なんだけど、従来作ではストーリーの前提であったそれの挫折というのが今回のテーマです。技術革新が浮き彫りにする人間性とその拡張というイーガンがずっと描いてきたものではあるんですけど、これはその失敗の話なので何か心境の変化でもあったんでしょうか。しかも序盤はイランの世俗革命みたいな話になっていて、んー、なんというか欧米リベラル白人の幻想が感じられてやや鼻白む感じ。原著の刊行はアラブの春直前のようなのでそれなりに時代を先取りはしていて、しかも雨傘革命で話題になったファイアチャットみたいな技術も出てきたりしてさすがイーガンというところもあります。でもなんというかセンスオブワンダーというと古いけど、ディアスポラみたいな圧倒的なワクワク感も、順列都市みたいなセンチメンタルもあんまりなくてどうなんでしょ、これ。自分が親の気持ちというのが実感できないだけかも知れませんが。死にゆく父が息子に何を残せるかというテーマ自体は面白いんですけどね。