パラサイト 半地下の家族 ポン・ジュノ
ミッドサマー アリ・アスター
去年あたりからTwitterのシネフィル界隈で騒がれてたので日本公開されたら見ようと思っていたもの。予約しようとして知ったのだけど監督のアリ・アスターは、こちらも去年騒がれてたヘレディタリーの監督でもあるのね。とある事件で精神的に不安定になったメンヘラ女子大生ダニーと、そんなダニーにいい加減うんざりして別れかけのイケメン彼氏クリスチャンが大学の友人とともにスウェーデン奥地の村ホルガで90年ぶりに開かれる祝祭に参加することになるが…という何だか非常に伝統的なホラー映画の文脈に則ったプロットだけどこれがものすごく良くできている。夜のない白夜の明るい日差しのもとの牧歌的なスウェーデンの自然と全編に溢れるみんな大好き北欧デザインとキリスト教以前の地域信仰をミックスしたオシャレ感満載の意匠にまさかの古典ホラープロットを継ぎ足すという闇鍋感がここまで巧みにホラー映画として成立しているのには脱帽。今更ながら来たる2020年代の映画監督としてアリ・アスターには今後注目していきたい所存であります。ちなみにこの映画、人物描写も非常に巧みで、別れかけのカップルの痴話喧嘩と事情を知ってる彼氏の友達との関係性が絶妙にいやらしく描かれていてちょっとイヤーな汗をかくシーンが多数出てくるあたりアリ・アスター性格悪いよなー(褒め言葉)。
ラストレター 岩井俊二
国内作品監督としてはリップヴァンウィンクルの花嫁以来ということでいいのかな。岩井俊二の新作。仙台を舞台にある女性の自死から始まる手紙とコミュニケーションの交錯が誤解と偶然に導かれて過去の恋とその悲劇的な結末を描き出していく、と説明するとなんだかありきたりのラブストーリーにも思えるけど、そんなプロットの凡庸さを吹き飛ばすぐらい構成が緻密で練られた作品でしたよ。登場人物の意図と行動と関係性を因果の糸としたときに、彼らの糸のような過去と関係性がストーリーが進むにつれて少しずつ少しずつ現れては繋がり、絡み具合も増していって、最後に全て現れた糸が繋がって解きほぐされた時の過去の再生と救済のカタルシスがこれぞ映画というほどの出色の出来になってます。映画の文法に実に忠実に、叶わなかった過去の恋と記憶の糸を丁寧に丁寧に何重にも結んでより集めては解きほぐしていく、その道筋がとてつもなく綺麗でセンチメンタルで王道の作品。世に素晴らしい映画は数あれど映画って何と聞かれたら近年ならこれを挙げたいというくらい丁寧に作り込まれた良作と思う。しかし庵野監督って普通に役者やるようになったのね。
最近聴いたものたち
久しぶりに音源買った。フェニックスはこの間東海岸のオサレカフェでIf I ever feel betterが流れていて気に入ったのでsiriに聞いてみたら懐かしのフェニックスだった。そういえばこれ昔買おうかどうか迷って結局買わなかったんだよな。アタリティーンエイジライオットもついでに思い出して購入したんだけどこれも昔迷って買わなかったやつ。どちらも当時買っておけばよかった。21世紀に入ってもう20年も経つけど今だに感覚が90年代から00年代初頭のまま止まっているようでよろしくない。この辺りの時代って個人的に思い入れが深すぎるのでどういう色がついた時代なのかよくわからないところがある。60年代70年代80年代はなんとなくわかるんだけどな。新宿のタワレコやディスクユニオン、神保町を当て所なくうろついていた昔を思い出す2枚。
ディストラクションベイビーズ 真利子哲也
たまたまテアトル新宿にリップヴァンウィンクルの花嫁観に行ったときに見かけたのだけど監督があのイエローキッドの真利子哲也と知って早速観に行ってみた。真利子哲也といえばイエローキッドが特にそうだったのだけど、粘着質な変態の撮り方がなかなかすごい監督で、なんというか異形の者の描き方が上手い人なんです。これって例えば漫画家の新井英樹とかもそうなんだけど、今作はあらすじなんかを見たりして新井英樹っぽい映画なのかなーと予想して行ったら完全に新井英樹でした。しかもThe World Is Mineでした。*1
内容はもうひたすら柳楽優弥が通りすがりの人をむやみに殴りつけるだけの映画なんだけど、これはもう完全にモンちゃんですね。それに菅田将暉扮する腰巾着役のチンピラ裕也が出てきてモンちゃんを煽るわけだけど、はいトシですね。まあ役柄的に単なる頭空っぽのチンピラで自分より弱そうなやつしか手を出さず通りすがりの女子高生をいきなり殴ったりするようなクズの人なのでトシほど活躍しませんが。それとマリアポジションとしては巻き添えで拉致されるキャバ嬢、那奈役の小松奈菜なんでしょうか。ただこのトリオ3人が3人ともわりとクズっぽい感じなのでドラマ性は薄いです。主要キャラのうちで唯一主人公の弟が真人間で、四国を放浪して人を殴りまくるお兄ちゃんを心配してけなげに探して回りますが、いつもニアミスで見つかりません。かわいそう。
で、この映画の見所というと多分大方の人も期待してるところの久々の柳楽優弥なんだけど、なかなかよかった。ほとんどセリフはありませんが、狂犬のような笑みを浮かべて獲物を探してさまよい歩く様がいい感じに痺れる。かなりのクオリティのモンちゃんじゃないでしょうか。モンちゃんじゃないけど。あと意外に小松奈菜の演技がキレてて良かった。瀕死の裕也を蹴りまくりながら罵倒するシーンがあって一部の業界の方にはご褒美じゃないでしょうか。知らんけど。
総じてこの映画、出てくる登場人物がのきなみ暴力的です。TWIMもそうだったけど、こういうむき出しの暴力性ってまま人間性とは対立するようにも捉えられたりするけど、本当は人間の生命力の表出で、それが他者とぶつかるところに人間にまつわる様々な営みが生まれるのだと思う。それは倫理と呼ばれるものかもしれないし、正義と呼ばれるものかもしれない。観客はおそらく主人公泰良や裕也の露悪的に描かれた暴力に不快感を覚えたり、逆に那奈の報復に爽快感を覚えたりするのかもしれないが、そのこと含めてまるごと人間のやることなんです。そしてそれを値踏みするのも人間なんです。そういうどうしようもない人間性というものを撮るのが映画なんです、というと大上段でよろしくないけど、少しは当たってるんじゃないかと思ってます。
最近聴いたもの 20160514
今更ながら買ってみた。うーん、すごいねこれ。メタルアイドルポップなんて思いつくのもすごいけど、ここまでガチのクオリティでやられると脱帽。そりゃビルボード入りもしますよ。しかし21世紀に入ってもう10年以上経つわけで、ポップミュージックの音楽的遺産も膨大なものになって、Apple Musicなんかには一生かけても聴ききれないライブラリーがあるなかで、こういう風に特定ジャンルの再解釈でまだまだ面白いものは作れそうな感じはありますな。エレポップはもうあるから、ジャズアイドルポップとかどうだろう。さすがに食い合わせ悪いかな。*1
これも今更だけど、もっと早く聴いてればよかった。大傑作でしょこれ。上のベイビーメタルの話で言えば、ファンクアイドルポップかな。一夫多妻制アイドルグループというデタラメな設定から溢れる強烈な多幸感。これはライブが見たいわー。
これもいつの間にか出ていた相対性理論の新譜。相変わらず安定の薬師丸不動尊です。ただちょっとマンネリかなー。でもこの神聖かまってちゃん風のジャケットはなんなんでしょ。あとiTunesでなかなか出ないのはインディーだからなんですかね。